はじめに
近年のネット通販の急速な普及により、配送ドライバーの皆様の負担は年々増加しています。当院にも「長時間の運転で腰が痛い」「重い荷物の積み下ろしで肩を痛めた」「首から肩にかけてのコリがひどい」といったご相談で多くのドライバーの方にご来院いただいております。
中には「仕事が終わると立ち上がるのがつらい」「朝起きた時から体が痛い」という深刻な状態の方もいらっしゃいます。今回は、配送ドライバー特有の体の不調について、原因と対策をお話しします。
配送ドライバーに多い症状と原因
1. 腰痛の主な原因
長時間の座位姿勢
1日8時間以上の運転では、腰椎への負担が極めて大きくなります。特に座位姿勢は立位よりも椎間板内圧が高く、長時間継続すると腰痛の原因となります。
振動による影響
車の振動は腰椎や周辺筋肉に持続的な負担をかけ、筋肉の緊張や血流悪化を引き起こします。
重量物の持ち上げ
- 宅配便の荷物(20kg以上の重量物も多い)
- 不安定な形状の荷物
- 狭いスペースでの積み下ろし
- 階段での運搬
2. 肩こり・首の痛みの原因
運転姿勢の問題
- ハンドルを握る際の肩の前傾
- バックミラーの確認による首の回旋
- 長時間の同一姿勢
精神的ストレス
- 配送時間のプレッシャー
- 交通状況への対応
- 顧客対応のストレス
3. その他の症状
膝・足首の痛み
- 頻繁な乗り降り動作
- クラッチ操作(MT車の場合)
- 長時間の座位による血流悪化
腱鞘炎
- ハンドル操作の繰り返し
- 荷物の持ち運び
- 端末操作
実際の症例から
ケース1:宅配ドライバーの急性腰痛
大手宅配会社に勤務するNさん(35歳)。繁忙期の連続勤務中、重い荷物を持ち上げた瞬間にぎっくり腰を発症。「荷物を見るのも怖くなった」と訴えられました。
ケース2:長距離トラック運転手の慢性痛
長年のキャリアを持つKさん(50歳)。長時間運転による慢性的な腰痛と肩こりで、「運転席に座るだけで痛みが始まる」「休日も痛みが取れない」という状態でした。
ケース3:軽貨物ドライバーの複合症状
個人事業主として軽貨物配送を行うAさん(42歳)。腰痛、肩こり、膝痛の複合症状で、「仕事を続けられるか不安」とご相談いただきました。
運転中の腰痛・肩こり予防対策
1. 正しい運転姿勢
- シートの高さを調整し、膝が軽く曲がる状態に
- 背もたれの角度は100-110度程度
- ハンドルは肘が軽く曲がる距離に調整
- ヘッドレストで頭をしっかり支える
2. シート・車内環境の工夫
- 腰当てクッションの使用
- シートの前後・高さの細かな調整
- エアコンによる適温維持
- 適切な照明の確保
3. 運転中の休憩
- 1-2時間ごとの休憩
- 軽いストレッチや歩行
- 水分補給
- 深呼吸でリラックス
重量物取扱いの正しい方法
1. 基本的な持ち上げ方
- 荷物の重心を把握する
- 体を荷物に近づける
- 膝を曲げ、背筋を伸ばす
- 腹筋に力を入れる
- 脚の力で持ち上げる
2. 運搬時の注意点
- 体をねじらない
- 小分けして運ぶ
- 台車やリフトを活用
- 二人で運べる場合は協力する
3. 積み下ろしの工夫
- 車両の高さに合わせた作業台の使用
- 滑り止めマットの活用
- 適切な作業靴の着用
効果的なストレッチ・運動
1. 運転前のウォーミングアップ
腰回し
立った状態で腰に手を当て、ゆっくり回す。左右各10回。
肩甲骨回し
両手を肩に置き、肘で大きく円を描く。前後各10回。
2. 運転中(信号待ちなど)
首のストレッチ
首を左右にゆっくり倒す。各10秒キープ。
肩すくめ
肩を上に上げ、3秒キープして力を抜く。5回繰り返し。
3. 運転後・休憩時
腰そらし
立って両手を腰に当て、ゆっくり後ろに反らす。10秒キープ。
前屈ストレッチ
足を肩幅に開き、ゆっくり前屈。太ももの裏を伸ばす。
4. 自宅でのケア
キャット&カウ
四つ這いで背中を丸めたり反らしたり。10回程度。
壁立て伏せ
壁に向かって腕立て伏せ。胸と肩周りをほぐす。
生活習慣の改善ポイント
1. 睡眠環境の整備
- 適切な硬さのマットレス
- 枕の高さ調整
- 7-8時間の十分な睡眠時間
2. 食事・水分補給
- バランスの取れた食事
- 炎症を抑える食材(魚、野菜など)
- こまめな水分補給
- カフェインの取りすぎ注意
3. 入浴・リラクゼーション
- 湯船にゆっくり浸かる
- 入浴剤で血行促進
- 軽いマッサージ
- 深呼吸・瞑想
こんな症状があったら早めの受診を
- 足にしびれや痛みがある
- 朝起きた時の痛みが強い
- 運転中に激痛が走る
- 肩や腕に力が入らない
- 頭痛や吐き気を伴う
- 3日以上症状が続く
当院での治療アプローチ
配送ドライバーの方には、職業特性を理解した治療を提供しています
手技療法
- 筋肉の緊張緩和
- 関節可動域の改善
- 血流促進
運動療法
- 体幹筋強化指導
- ストレッチ指導
- 日常動作の改善アドバイス
生活指導
- 正しい運転姿勢の指導
- 重量物取扱いの指導
- セルフケア方法の指導
まとめ
配送ドライバーの皆様の体の不調は、職業の特性上避けにくい面もありますが、適切な知識と対策により大幅に改善することができます。体の痛みを我慢して働き続けることは、長期的には仕事に支障をきたす可能性があります。
早めの対策と適切な治療により、健康な体で長く働き続けることができます。痛みや不調でお悩みの際は、一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。
*※症例については、プライバシーに配慮し、特定できない形で紹介しております。
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